暇つぶし程度に書いた短編小説(約1700字)

  とある数学者の高校生活

 

「ずっと前から言おうと思ってたんだけど……実は俺、『リア充』なんだ」


 なんだって? 僕は親友である智也の言葉に、まるでガツンと頭を打たれたような感覚を覚えた。瞬時に、これはなにかのドッキリか、とも考えたが、目の前で申し訳なさそうな表情をする智也が冗談を言っているようにも思えない。


 智也と僕はいわゆるオタク仲間。アニメやラノベの話をよくする友達だ。高校生になってから知り合った仲だが、それでも親友だと思っていた。


「そ、それは本当なのか?」わけがわからない。そんなはずがない。頭の中では何度も否定の言葉が浮かんだ。


「あぁ、本当だ」
「二次元じゃなくて、三次元の彼女が……」
「あぁ」


 智也が頷いた。その瞬間、僕は頭に血が上って、智也の肩を強く掴んだ。


「貴様ぁ! 裏切りやがったな!」
「違う!」智也は僕の手を弾いて、叫んだ。まるで刑事ドラマの犯人のように、叫んだ。


「裏切ったんじゃない……。ずっと前から、付き合ってたんだ」


 なんだと。その方が罪深いじゃないか。僕は呆然として、親友の顔をまじまじと見た。僕と同じような平凡な顔。特別良いとも悪いとも言えない顔だ。


「……どんな子なんだ?」


 僕が尋ねると、まるでこの緊迫した状況が嘘のように、智也は少し頬を緩めた。


広瀬すずによく似た、可愛い子だよ」
「ふ、ふざけてるのか?」僕はここで、やはりこれはドッキリなのではないかという説を再考した。
「本当だよ!」
「だったら、写真を見せてみろよ」
「えぇ……」

 

 しかし、智也は嫌そうな顔をして、スマホを取り出そうとしない。


「見せたらお前、惚れちまうだろ」
「そんなわけねぇだろ、バカ野郎! いいから見せろ!」


 僕は恐怖さえ感じた。こいつは本当に智也なのか? まるでなにかに憑かれているかのようだ。
 智也は渋々といった様子で写真を見せた。


「……う、ぐあぁぁぁぁ」そして、地に這いずる畜生のような声で僕は呻いた。これは毒だ。僕のような非リア充を殺すための毒だ。
 たしかに広瀬すずに似ている。画面に映る智也の彼女は美少女そのもの。ぱっちりとした瞳とショートヘアが印象的。笑顔が眩しい。目が焼けそう。


「お前ぇ、……お前!」僕は泣きそうだった。けど涙はでなかった。広瀬すず似の美少女の笑顔によって乾いてしまったのだろうか。


「な、かわいいだろ?」
「うぜぇぇえなぁ、おい! クソ! もうお前なんか友達でもなんでもねぇよ!」


 僕は机を思いきり叩いた。痛かった。けれど、なんでもないふりをした。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はお前に申し訳ないと思って、それで打ち明けたんだ」


 正直に打ち明けたらなんでも許されると思っているのか? だったら警察はいらないだろう。いや、たとえ社会が許そうとも、俺が許さない。全国の非リア充が許さない。


「俺とお前は、毎日のようにアニメについて語り合ったよな」
「あぁ、あの時間は決して嘘じゃない」
「……本当か? 俺の目を見て、それが言えるのか?」
「もちろんだ」
「ふっ」僕は思わず鼻で笑った。なによりもこの愚かな自分に対して笑った。


「今思えば、俺とお前は相容れない関係だったのかもな……」僕は呟いた。智也に向けた言葉というよりは、過去の自分に向けた言葉のような気がする。


「そ、そんなことないだろ。俺はお前と仲良くしてぇよ! たとえ『リア充』と『非リア充』という垣根があっても!」
「なら!……なら、なぜカラオケでリア充っぽい曲ばかり歌うんだ? なぜ『嫁』という存在を毛嫌いする? なぜLINEの友達が三桁なんだ? ……わかっただろ。俺とお前は違う世界の人間なんだ」


 俺はため息を吐いた。


「……俺には、夢がある。最後にそれを教えてやるよ。俺は数学者になって、この世界を微分するんだ。そして二次元に住む」


 初めてこの壮大な夢を語った。智也は驚いた顔をして、そしてぽつりと言葉をこぼした。


「あぁ、なるほど。たしかに住む世界が違う」


 智也はまるでドブネズミを見るような目で僕を見ていた。

 クソ、絶対お前も微分してやるからな。